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地域科学の実践

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2022年6月24日

無人駅をDIYするプロジェクト#1(大分県豊後大野市朝地町)

1.無人となった駅、そこに明かりを灯し続けよう

大分県豊後大野市朝地町にある「朝地駅」(あさじえき)

JR九州豊肥本線、つまり豊後の国(大分)と肥後の国(熊本)をつなぐ鉄道の無人駅が今回の舞台です。

 

朝地駅は1983年に無人駅となり、現在は朝地駅観光案内所(朝地インフォメーションセンター)となっています。今回は、そんな朝地駅を拠点に、人々が集い、町が元気になるための、朝地の人々と歩んだ一つのプロジェクトを振り返ってみようと思います。

 

 

朝地駅は、2012年に九州オルレの奥豊後コースが認定されてから、時には韓国の参加者、時にはツアーバスの団体客、そして、オルレガイドの拠点として、多くの人に利用されてきました。

ところが2020年は世界を揺るがす新型コロナウィルスの感染拡大。人の行き来がストップし、九州の自然豊かな片田舎でも人々の心に、経済に、様々な影を落としました。奥豊後オルレコースも利用者が減ってくる…そんな中での観光案内所の補助金終了問題

 

補助金が切れたら運営ができなくなるというのは、特に公益的な活動をしているところはよくあることかもしれません。

地域のまちづくり組織なども、そのような課題を抱えながら運営しているところが多いのではないでしょうか。

 

補助金がなくなっても、朝地駅の明かりを灯し続けたい、そんな思いで立ち上がったのが、今回のプロジェクトの主役となる「朝地町観光推進協議会」のメンバーの面々。

朝地町を元気にしよう!と立ち上がった町の人たち。年齢も得意分野も多様な人たちが集まるのが、地元の組織の良いところです。

 

「朝地町観光推進協議会」は、補助金終了後の2020年度から活動拠点として、朝地駅観光案内所(朝地インフォメーションセンター)を担うことになりました。

すべては朝地町を元気にするため。コロナ禍中ではあるけれど、だからこそ、自然のなかで心地よいスペシャルな時間を朝地駅から発信しよう、そういう意気込みにあふれていました。

2.ええじゃないか、オルレがあるじゃないか

とはいえ、そこで課題になるのは「資金」。継続した活動をするのも、新たな事業を行うにも、資金が必要です。先立つものがなければ、持続的な活動にはつながりません。タダ働きほど、無理が効かなくなるものです。

 

相談を受け、お話を伺いに朝地駅に足を運んだのが2020年5月。新緑のまぶしい季節(ほんとにまぶしいのです)、こいのぼり揺れるフォトジェニックな朝地駅で心地よい風に吹かれる昼下がり。

 

お話を聞くと、朝地町には様々な課題もありました。近くのスーパーが閉店した。高齢の方が生鮮品を買いに行ける場所がなくなった。コロナでオルレに来るお客様も減って、ガイドもできなくなった。地域の人が楽しめる場所がない。娯楽がない・・・等々。いろいろなお話を伺う中で、「朝地の魅力をたっぷり味わえる」「朝地駅に人が集う」「地元の人も楽しめる」「朝地の人の仕事ができる」「朝地にまた来たくなる」そんな良い循環が生まれるものはなんだろうか、できればお金があまりかからずに・・・そういうことをぐるぐる考えた結果が、まず、「DIY」でできることをしよう

そして、何をするか?どんなことをするか?課題に向き合い、朝地駅の強みに向きあい、まとまってきた考えは、何よりもまず「朝地駅は奥豊後コースの出発地点」という部分に着目すること。

 

 

さて、「オルレ」という言葉を初めて聞く人のために「オルレ」について少し紹介すると・・・(ここまで書いておいて今更ですが)

「九州オルレ」は九州各地にあるウォーキングコースです。20か所以上のルートが登録されていますが、九州以外ではまだまだマイナーかもしれません。「オルレ」は「通りから家に通じる狭い路地」という意味の、韓国の済州(チェジュ)島の方言です。詳しい説明は下記へ任せることとして。オルレが九州で広まっていることも、韓国と九州の近さを感じます。

 

オルレコースでは、ピンクと青のリボンが歩く人々を案内してくれます。できるだけ舗装されていない道を景色を楽しみながら、のんびりと歩いて楽しむ人気のあるアクティビティです。

「奥豊後コース」は朝地駅から竹田駅を結ぶ約12キロのコースで、途中には、朝地町ののんびりした農村風景、紅葉の名所用作公園、巨大な石仏の普光寺、切り立った石垣に圧倒される岡城など風光明媚な景観が満載の約4~5時間の中級レベル。登山、、ではないのに、普段から移動が車中心の私は、少々しんどい(笑)

 

本題から逸れましたが、朝地駅は四季折々の表情をみせてくれる九州オルレ奥豊後コースの出発地点として県内外、国外の方にもたくさん愛されてきました。今の時期だからこそできる、アフターコロナを見据えた取り組みとして、「DIYで、オルレからできることを考えよう!」

3.謎の「ウマトウマゴヤタイ」

オルレから考えよう、とスタートしましたが、朝地町の課題にの目下の課題、それは食料品店の閉店です。小さなスーパーでしたが、特に高齢者など遠くへの移動が難しい方にとっては閉店すると生活が不便になります。そんな課題を解決する何か一歩にならないか?生鮮品がもう少し近くで買えないだろうか?

 

そんなことを話し合うなかで、朝地駅が地域の人が集まる拠点になるために、居酒屋でも、カフェでも、マルシェでも、マーケットでも、みんなが楽しく集える場所になるために必要だ!となったのが「屋台」。そう、あの「屋台」です。当初からこのプロジェクトに関わっている(巻き込まれている?)伊藤建築士の後ろ盾のもと、朝地駅にぴったりフィットする屋台とは何か?考えた果てに出てきたのが、

 

「ウマトウマゴヤタイ」

 

そう、この屋台のモチーフは「馬」。それも、「カンセ」という馬がモチーフとなっています。カンセはオルレのシンボルマーク。青とピンクのカンセの屋台の登場です。

設計は「ウマトウマゴヤタイ」の名付け親、抜群のネーミングセンスを発揮した伊藤建築士、そして制作はプロ中のプロ、地元の大工さんに依頼し、地域一丸となってDo It Yourself!

みんなで、測って、計算して、切って、組み立てて、色を塗る。最初から最後までDIYしました。

 

そしてついに、オルレのシンボルでもあり、朝地駅のシンボル「ウマトウマゴヤタイ」の完成です!(屋台だけでなく、馬型のベンチもDIY♪)

地域の人に愛される機会が少しずつ増えるといいですね。

 

4.リュックでもへっちゃらオルレ弁当&朝地駅から発信する「ロゴマーク」

次のDIYは、オルレ弁当の開発。プロの料理研究家に協力をしていただくことになりました。朝地は昔から「朝地牛」というブランドを持っているほど畜産が盛ん。これを逃さない手はありません。それに美味しいお米や野菜。海はなくとも素材と食べ物には事欠かない。それが里山の強さです。

オルレ弁当は、長い距離を歩くリュックの中でも型崩れしにくいようバランスや配置にまでこだわりを詰めました。背中で揺れるお弁当が参加者の楽しみになるように、心も体も元気になるよう、想いを込めて。

お弁当の包みには、竹の皮や木のワッパを使って環境にも配慮することにしました。自然の中で食べる体にやさしいお弁当は心も解放してくれること間違いなし。

そんな朝地町の粋を集めた「あさじオルレ飯」は3種類。注文はwebからできるようにしています。

 

「ウマトウマゴヤタイ」「あさじオルレ飯」そして、この一つのプロジェクトを力強く発信するために、ロゴマークが誕生しました。ロゴマークの制作はいつも遊び心のあるデザインを手掛けるパラボラ舎のたなかさん。

オルレカラーを配色したかわいいデザインになりました。

5.Singing in the ASAJI station

そして、いよいよ、ウマトウマゴヤタイ、あさじオルレ飯のお披露目企画は、青とピンクの傘の下、盛大に行われました。参加者はオルレカラーをドレスコードに、ウマは放牧され、芝生で楽しむ。

ウマの背では、あさじオルレ飯が振る舞われる。

 

酔った勢いで発注したというオルレカラーの傘はインスタ映え間違いなし。怪しまれた天候も、傘が功を奏したのか、晴れ男のおかげなのか、雨が降ることなく、開催することができました。

 

今回のお披露目会は、DIY精神で取り組んだ「あさじむじん駅DIYプロジェクト」のゴールであり、スタートです。今回のプロジェクトでDIY精神にあふれるようになった朝地駅。無人駅から、もうすでに何かが動き始めました。

 

無人駅が、にぎやかになる日。

 

それは、春の足音のように、思いのほかにぎやかに、もうすぐそこまで来ているような気がします。